2024.09.13
【つなぐNOTE#2】地域おこし協力隊OG-大槻美友さん
東日本大震災で全村避難を経験した飯舘村は、ふるさとの再生へ、総力戦で一つひとつの課題に向き合ってきました。その道のりに想いを寄せ、あるいは新たな可能性を見出して、色とりどりの活動を展開してきたのが地域おこし協力隊の皆さんです。
今回は、2020年から2023年にかけてフリーミッション型の協力隊員として活躍した「工房マートル」のキャンドル作家・大槻美友さんを紹介します。協力隊を目指した時のこと、これまでの活動の軌跡、飯舘暮らしの魅力などについて、大槻さんに執筆していただきました。
飯舘村の特産品を使ったボタニカルキャンドルで村をPR
私が飯舘村地域おこし協力隊として活動を始めたのは、先輩移住者が「飯館村の地域おこし協力隊になってみない?」と誘ってくれたことがきっかけでした。
その人は2019年に福島市のマルシェで偶然出会った二瓶さん。飯舘村に移住し、協力隊として活動を始めたばかりの人でした。当時キャンドル作家として、活動の方向性や作品のブランディングに悩んでいた私に、協力隊として村の特産品である花卉(かき)を使ったボタニカルキャンドルを作ってPRをすることを勧めてくれました。彼女の言葉に心を動かされ、2020年春、私は、飯舘村地域おこし協力隊に着任しました。
私は福島市の出身ですが、同じ福島県内でありながら、一度も訪れたことのなかった飯舘村。2011年の原発事故をきっかけに全村避難をした村としてその名が広まっていましたが、いざ移住してみるとメディアで言われているような不安なイメージは全くありませんでした。むしろ移住者を温かく迎えてくれるウェルカムな雰囲気があり、村民は各々の生業に実直に向き合い、前に進もうとするパワーに溢れた人たちばかりでした。
私はフリーミッション型の協力隊として飯舘村のPRを図るため、自身のキャンドル技術を活かした活動を進めてきました。
協力隊1年目は、地元の花卉を使ったボタニカルキャンドルの制作・販売を村内外で行いながら、並行して拠点となるアトリエの改装を行いました。たまたま空き家バンクに登録されていた築50年ほどの民家を借り受けて、セルフリノベーションで壁や柱を塗り直し、オープンに向けて準備を進めました。
2年目は、活動のミッションとして、「飯舘村を知るきっかけを作り実際に来てもらう、そしてまた来たいと思わせる仕組みを作る」ことを掲げ、春に工房をオープンしました。平日は自身の制作活動、週末はワークショップや展示販売を行い、年に何度かイベントも開催して、飯舘村に来る「きっかけ」を少しずつ増やしていきました。延べ800人以上のお客様が足を運んでくださる結果となり、とても嬉しかったことを覚えています。村内でも私の活動を理解してくださる人が徐々に増えていき、村のお祭りやイベントに出店しないかと声をかけてもらえる機会も多くなりました。
3年目は協力隊の卒業を見据えて工房を運営しつつ、助言やサポートを受けながら収支の計画づくりを行ったり、都内の百貨店などへ販路拡大を進めたりなど、個人事業主として活動を継続できるよう準備をすることがメインとなりました。卒業後の独立に向けた準備を、協力隊期間中に「活動」として認めてもらえたことが、現在までキャンドル作家を続けてこられた理由かもしれません。
協力隊を卒業して早2年が経ちますが、今も変わらず同じ工房で制作を続けています。大好きなものづくりの仕事が続けられていることに感謝しつつ、これからも飯舘村で活動していきたいと強く願っています。
この村で生業を持ちたい同世代に伝えたい「絶好のチャンス」
私が“これから飯舘村で出会いたい人”は、20〜30代の同年代で、この村で生業を持ちたいと思っている人です。飯舘村のフリーミッション型の協力隊はとても自由度が高く、他の自治体と比べても、なかなか出会えない魅力的な募集内容になっていると思います。一方で、自身で取り組んでみたいことが曖昧だったり、活動における軸のような部分がなかったりすると、自由度の高さが返って活動の枷(かせ)になってしまう恐れがあります。
村の方はよく「飯舘村は何もない」と言いますが、何もないことは「絶好のチャンス」だと思っています。その土地にないからこそ、最初に始めた人が第一人者になれるし、唯一無二の存在になれるのではないでしょうか。26歳で単身移住を決めた私ですが、振り返ってみると20代の決断力とフットワークの軽さは強みだなと改めて感じています。花や自然が好きな人、キャンプが好きな人、食文化に興味がある人、田舎暮らしに関心がある人…どんなきっかけでもいいから、まずは飯舘村にふらっと来てみて、先輩移住者と話をしてみることをおすすめします。私もぜひ、色んな人と関わってみたいなと思っています。
暮らして感じる飯舘村のこと
飯舘村の魅力は、自然の豊かさや四季折々の農作物など多岐にわたりますが、個人的には「人」が大きな魅力だと思っています。昔から村で暮らしている方々が、よそから来た私たちに郷土料理を振る舞ってくれたり、電話や声をかけてくれたり、遠くもなく近すぎない、ほどよい距離感で気にかけてくれるところが心地よいです。
また、ここ数年は地域おこし協力隊や新規移住者など仲間が少しずつ増えてきています。協力隊の1人が運営するカフェに集まって、みんなで一緒に夕飯を食べることが多いです。今年は村内のパークゴルフ場で大会を開いたり、村営キャンプ場でバーベキューやテントサウナをやってみたりと、新しい楽しみ方もどんどん広がってきました。
最近は、築50年に近い村内の中古物件を購入し、家での暮らし方を少しだけ大切にすることにはまっています。村で採れた梅を使ってシロップや梅酒を仕込み、ハーブや花の栽培に挑戦してみるなど、自分のペースで暮らしや住まい方を整えていくことがとても好きです。暮らしが豊かになると、心も豊かになって、キャンドルの作品がとても生き生きとした表情に変わっていくような気がしています。山のてっぺんに拓かれた飯舘村で、自分なりに暮らしを楽しむ方法を見つけられるのも魅力の一つかもしれませんね。