2024.11.24
【ミチシル旅レポートvol.7】11/23-24つながるミチシル旅「地域の想いと森林の環境を引き継ぐ旅」
飯舘村の「しごと」「くらし」「子育て」を知る体験ツアー「つながるミチシル旅」第3弾は11月23、24日に開催。今回は森林整備の現場や関根・松塚行政区などを訪ね、交流を通じて地域の産業や村の暮らしへの理解を深めました。飯舘で働き、暮らしていく上でのリアルな課題に触れながらも、都会にはない自然や人情などの魅力を体感した2日間。移住を考える皆さんにとっては、より確かな手応えを感じられる旅になったようです。
【行程一覧】
1日目
[11:00] バス利用者は福島駅からバスで『もりの駅まごころ』へ
[12:00] 『もりの駅まごころ』で昼食とオリエンテーション、自己紹介
[13:45] 飯舘村森林組合に到着。森林整備(伐採・植林)の現場を見学
[15:00] 『宿泊体験館きこり』に到着。『農業研修館きらり』も見学
[16:30] いいたて村の道の駅までい館で冬まつり(花火打ち上げなど)に参加
[18:15] 『ゑびす庵』で夕食・交流
[20:15] 『宿泊体験館きこり』に戻り自由行動・就寝
2日目
[7:50] エムケーファーム菊野里絵さんの朝食
[9:00] 関根・松塚行政区の集会所へ。住民の皆さんと地区内のごみ拾い
[10:30] 集会所へ戻り住民と懇親会
[11:25] 移住サポートセンター『3ど°』スタッフによる移住相談会
[12:25] 『コーヒーポアハウス』で昼食と振り返り
[14:00] 『もりの駅まごころ』に戻り解散(バス利用者は福島駅へ)
[15:00] 福島駅に到着
【1日目】
今回の参加者は10人。東京や神奈川、千葉など首都圏に加え、関西方面から来られた方もいました。都会より一足早く、初冬の気配が漂う飯舘村。吹き付ける風の冷たさに、この季節ならではです。
集合場所は『もりの駅まごころ』。食品加工や調理の施設を備え村民の起業をサポートする施設です。『もりの駅まごころ運営協議会』の代表を務める鮎川邦夫さんが、いつもの笑顔で迎えてくれました。
かつて農産物直売所だった『もりの駅まごころ』は、原発事故による休止を経て2年前にリニューアルオープン。自身も20年前に飯舘村へ移住した鮎川さんは「(戦争や災害などの)有事に備えるには田舎暮らしの方がいいかも。私の住んでいるところには井戸があり、太陽光発電もできて、暖房にはマキが使える。最近はきな臭い世の中。2地域居住でいいから考えてみて」と、村の「安全・安心」をアピールしました。
参加者を案内した食品加工室には、殺菌や冷凍などの衛生施設も完備。「ノウハウも含めサポートするので、興味のある方は是非ご利用ください」と、鮎川さんは呼びかけました。参加者も早速ビニールの手袋を着けて餅丸めに挑戦。丸めたお餅にはきなこやあんこをつけます。つきたての柔らかいお餅を時折頬張りながら、にぎやかに作業をしました。
今回の昼食はバイキング形式です。郷土食あふれる料理とそばを用意した細杉今朝代さんと佐藤英信さんらがメニューを説明。打ち立ての新そばに鶏南蛮とエゴマのつけ汁、そして旬のダイコンの煮物など。もちろん、食材のほとんどは飯舘産です。
食事をとりながら、ツアーの運営スタッフが自己紹介しました。看護師と二足のわらじで手作りベーグルの店「村カフェ753(なごみ)」を営む田中久美子さんは「私も移住者。飯舘は何もないところだけど、その何もないところがとってもいいと思っています」と、村の魅力を語りました。
続いて、参加者からも自己紹介。「飯舘村に来るのは3回目。来年か再来年には移住したい」「週末移住のような形(2地域居住)を検討しています。福島で映画を撮ってみたい」など、具体的な構想を語る人もいました。
肉親や親せきが福島出身という方も何人か。ある女性は「母が飯舘出身なので、小さいころから来ていました。今、おいしいお餅を食べながら、お盆や正月に親せきが集まっていた昔のことを思い出しました。震災後、真っ暗になってしまった村も見たけど、今は新しく来た方々(移住者)が大勢いて、いろいろ素敵な出会いがあります。来るたびに『新たな飯舘が始まっているんだな』と感じ、ますますこの村が好きになっています」と、思いを語りました。
食事の後は飯舘村森林組合を訪ね、職員の案内で森林整備の現場へ。足元に気を付けながら急な斜面を登ると、樹木を伐採した切り株がたくさん並んでいて、その間には新しく植えた杉が数十センチの高さまで育っていました。いま注目されている、花粉の少ない品種だそうです。
森林組合は、山の持ち主が出資して設立された協同組合。伐採などの作業を引き受け、木材やキノコなどの林産物を加工・販売する組織です。山林地主の多い飯舘村の組合員(出資者)は990人。8人の事務職員と20人の作業員が働き、村の総面積の4分の3を占める森林の多くを管理しています。
林業は全国的に人手不足が深刻化。人が植えた森は、人が適切に管理しなければ荒れてしまい、土砂災害などの原因にもなります。国と全国森林組合連合会(森林組合の全国団体)は、新たに林業の世界へ飛び込む人を対象に技術支援などを支援する「緑の雇用」事業を展開し、人材確保に努めています。飯舘村森林組合も最年少の働き手は19歳ですが、全体としては高齢化が大きな課題になっているとか。「ぜひ若い力を」と、職員の長正景子さんは言葉に力を込めました。
今夜の宿泊先『宿泊体験館きこり』は「あいの沢」の中に佇む宿泊施設です。そのとなりの『農業研修館きらり』は、2024年7月にオープン。農業体験の機会を提供し、新規就農者の確保につなげる狙いで作られた施設です。計5室に最大27人が長期宿泊もできます。ホテルのような宿泊室、会食にも使える研修室、自炊用キッチンなど充実した設備と格安の宿泊料金に、参加者から感嘆の声が上がりました。
ツアースタッフからは、資料を見ながら改めて村の概要や農業の取り組み、震災前からの歩みについての説明がありました。飯舘村はかつて、若い既婚女性をヨーロッパへの研修旅行に送り出した「若妻の翼」や、他の市町村と合併せず「自分たちを輝かせる」独自の地域づくりに取り組んできました。原発事故による6年間の全村避難を経験し、まだないものも多いですが、それを「余白」と考えれば新しいチャレンジができる――そんな魅力を語りました。
チェックインを済ませ、冬まつり開催中の「いいたて村の道の駅までい館」に到着。そのころには、すっかり日が暮れていました。参加者は夜空を彩る打ち上げ花火に歓声を上げ、色とりどりのイルミネーションや、さまざまな装飾を施したキャンドルが並ぶ幻想的な光景に見とれました。イベントに合わせ、特別に営業時間を延長して開店していた道の駅でも村産品の買い物を楽しみました。
夕食の会場は、震災前からの老舗で村内の飲食店では避難解除後真っ先に再開した手打ちうどんの店『ゑびす庵』です。煮魚など素朴な家庭料理と出汁がしみじみ味わい深い手打ちの太麺うどん、そしてアットホームな店の雰囲気に気持ちがほぐれます。参加者同士で打ち解けた雰囲気の中、話題が尽きません。
「震災がなかったら店を継がなかった」と話す、ご主人の高橋均さんは福島市松川町から片道30kmを自転車で通うこともある“鉄人”。「飯舘村は見ての通り、すごくいいところ。車が運転できないと生活は大変だけど、交通量も信号も少ない。自転車が好きな人は、車に自転車を積んできてみてください。『きこり』でお風呂に入って、良かったらうちにも寄ってくれれば」と笑顔で語りました。
【2日目】
霜が降りるほど冷え込みながらも、天候には恵まれた2日目の朝。 「きこり」に朝食を届けてくれたのは菊野里絵さんです。自身も東京出身の移住者で、祖父母が福島市で果樹栽培を営んでいた縁から農業の世界に飛び込み、今は村内でミニトマトなどを生産する農業法人を経営しています。
「私、料理の専門家ではないんですが」と言いながら、用意していただいたのは飯舘産の新米「里山のつぶ」を使ったおにぎり3種。某コンビニチェーンの定番商品として知られる「悪魔のおにぎり」は、本家をしのぐ絶品です。地元産の野菜を使ったおかずは栄養満点、みそ汁は前日の昼食でお世話になった細杉さんの自家製みそを使ったそうです。
2日目最初の訪問先は関根・松塚行政区の集会所で、大勢の住民が出迎えてくれました。今日は地区総出で取り組む環境美化(ごみ拾い)の日。ツアー参加者も住民に混じって四つの班に分かれ、地区内を歩いて道ばたに落ちているごみを回収します。大半の場所は、みんなが意識してポイ捨てをしないせいかごみも少なく、用意した袋に入れるごみはわずか。国道沿いはそれなりの量が集まり、住民の皆さんと手分けしながら集めました。目前に広がるのはのどかな田園風景。景色も楽しみながら、地元の人ともいろいろ話す穏やかな散歩のひとときとなりました。
集会所に戻ってからは、住民の皆さんとの交流会です。ツアー参加者は飯舘の自然の素晴らしさや人の優しさ、食べ物のおいしさなどを口々にたたえましたが、住民の皆さんからは「仕事(働き口)が少ない」「冬が寒い」「車が運転できないと不便」など、暮らしの苦労を挙げる声も上がりました。
「国は地方移住を勧め、テレビも田舎暮らしの楽しさを紹介するけど成功例ばかり。(移住は)多面的に考える必要があると思います」と、率直な指摘が出る一方で「空いている家や農地は多いので、覚悟を持って来るなら村が仲介してくれる」「大きな自然災害がないのは魅力」と話す住民もいて、参加者は発言の一つ一つに真剣に耳を傾けました。
村のいいたて移住サポートセンター「3ど°」での説明会では、移住経験者でもある相談員らが、移住者が利用可能な補助金や住まい、育児・教育などの支援策を解説。車が運転できない人には、村の社会福祉協議会がワゴン車による送迎サービスを行い、買い物や通院をサポートしていることも紹介しました。地域活性化のため地方へ移住する人を国が支援する「地域おこし協力隊」については、従来のフリーミッション(起業)型に加え、地元の企業・団体で働く「企業雇用型」が新設されたこと、村内への企業参入が増えている現状などについても説明しました。
締めくくりは、現役の地域おこし協力隊員である横山梨沙さんが開いたカフェ「コーヒー ポアハウス」での昼食です。オーストラリア留学をきっかけにバリスタの道を歩んだ横山さんは昨年この店を開き、おいしいコーヒーに加え平日(2024年12月現在、水~金の週3日)は「コーヒー屋の食堂」として、野菜中心のヘルシーなランチを提供しています。
食事の後、2日間のツアーを振り返りました。参加者の発言からいくつか紹介します。
「村民の皆さんからリアルな厳しさも教えていただき、いろいろ考えるきっかけになりました」
「新しい飯舘へのシフトチェンジの過程にあると感じました。実際に歩いたことで車で走るだけは見えなかった景色が見え、地元の人々との触れ合いもありました」。
「『(移住には)覚悟が必要』と、直球の意見もいただいた。でも、その覚悟を一人で背負うんじゃなくて、いろいろな形でサポートしてもらえるのが飯舘だということもわかりました。次は大切な人を連れて来たいと思います」
「食べ物がおいしかったけど、野生のキノコは(放射性物質の問題)今も食べられないという話にショックを受けました。自分たちが何かを得るだけでなく、次は自分が何かできることをしてつながれたらいいな、と思いました」
「未知」が「道」に変わり、その難しさもやりがいも、少しリアルになった2日間。皆さんが踏み出す次の一歩を楽しみに待ちたいと思います。