2024.10.26
【ミチシル旅レポートvol.6】10/26-27はじめてのミチシル旅「”までいな”心と生き様を受けとる旅」」
飯舘村の暮らしや仕事などを知る移住検討者向けツアー「はじめてのミチシル旅」の第3弾が10月26日(土)、27日(日)に開催されました。テーマは「半農半Xに触れて、体験して、可能性を感じよう」。長年、地域の暮らしを支えてきた食文化や農業に触れ、住民と交流した2日間に参加者の皆さんは深い感銘を受けたようです。
【行程一覧】
1日目
[11:00] 福島駅集合・出発
[12:00] 『もりの駅まごころ』で昼食・オリエンテーション
[13:30] 地域おこし協力隊OGを訪ねて『二瓶刃物ギャラリー』
[15:00] 農業体験 赤石澤傭さんの畑でサツマイモ収穫
[16:30] 農業研修館『きらり』の見学
[18:00] 田舎レストラン『La Kasse』で夕食・交流
[19:45] 宿泊体験館『きこり』にて宿泊
2日目
[7:50] 朝食
[9:00] までいを知るワークショップ お母さんと古布はたき作り
[10:30] 移住支援説明・移住相談会
[11:30] 『いいたて村の道の駅までい館』に立ち寄り
[12:30] 『氣まぐれ茶屋ちえこ』で昼食&旅の振り返り
[15:00] 福島駅着・解散
【1日目】
今回の参加者は4人と少人数でしたが、それだけに「濃い」旅になったと思います。しかも、3人はマイカーでの参加。茨城県から長野・新潟・山形の各県を経由して飯舘村に来たという旅のつわものもいて、迎えたスタッフからも驚きの声が上がりました。
ツアーの起点となったのは『もりの駅まごころ』。かつては直売所でしたが、東日本大震災・福島第一原子力発電所事故による閉鎖を経て、2年前に再開した施設です。現在は村民が農産物の加工や調理に取り組む起業支援施設として使われています。その経緯を説明した『もりの駅まごころ運営協議会』の鮎川邦夫会長も、実は移住者です。
昼食のお弁当を届けてくれたのは渡邊とみ子さん。原発事故による避難生活の間も、地域の食文化を守る活動を続けてきた渡邊さんは、昨年から村内でも食品加工を始め、今年は農家民宿『古今呂(こころ)の宿 福とみ』も開業しました。
盛りだくさんなメニューの主役は、飯舘村で品種開発された「いいたて雪っ娘かぼちゃ」を使った3品。白っぽい外皮からは想像できない、濃厚な甘みと滑らかな食感が特徴です。脇を固めるのは地域独自の保存食、凍み大根と凍み餅。ツアーのガイドスタッフが「標高が高いので寒く、昼夜の温度差が大きい気候を生かした食文化」と解説してくれました。
厨房でにぎやかに談笑しながら、みそ汁を作っていたのは細杉今朝代さん、高倉君枝さん、伊藤美智子さんの3人。みそ作りなどに取り組むグループの代表、細杉さんから「今日はあおばた大豆のみそを使いました」と説明がありました。あおばた大豆は、緑色の皮が特徴で糖度が高いのだそう。
お腹を満たしたところで、自己紹介タイムです。若いころから放浪の旅にあこがれ、ヒッチハイクで北海道から九州、フランスにも行ったという女性参加者に、細杉さんは「私らは嫁に来て箱に入ったような人生だったけど、そういう人生もいいね」とコメント。
でも、飯舘村も平成の初めごろ、村内の若い女性を海外研修に派遣する「若妻の翼」事業に取り組んだ歴史があります。そうしたことが、細杉さんたちのような女性の活躍にもつながっているのかも知れません。
次に向かったのは2020年に誕生した「村の鍛冶屋」。『刃物の館 やすらぎ工房』(福島市)が、閉園した旧草野幼稚園の建物を改修して開いた工場兼ギャラリーです。
主の二瓶貴大さんに代わって一行を迎えた妻の麻美さんは、地域おこし協力隊の卒業生。幼稚園教諭でもあった彼女は園庭に子どもの声が響いていたころの飯舘村を想像し「自分の手でここに人を戻したい」と、移住を決意したそうです。さまざまなクラフト(工芸品)の作り手を集めたイベント『山の向こうから』も催し、地域を盛り上げています。
ユーモアたっぷりの語り口で参加者を沸かせた麻美さん。移住を検討する人に向けては「明確にやりたいことがある人には、飯舘の人たちは温かく協力してくれるし、気にかけて手を差し伸べてくれる」と話しました。
参加者を乗せたバスは、上飯樋地区の山沿いへ向かいます。行き先は86歳の現役農家、赤石澤傭(すなお)さんの畑。村が主催する『わくわく農業体験塾』の受講生や担当職員も待ち受け、緒にサツマイモやカブの収穫を体験しました。20センチ以上もあるイモに「おお、すごい」「店で売っているのよりずっと大きい!」と歓声が次々と上がりました。
小学生のころから農業に携わってきた赤石澤さんは「昭和の生き証人」。今は使い道もわからなくなってしまったような古い農具について、名前や使い方を聞かれることもあるそうです。
原発事故で若い住民が減ってしまったことを嘆いていましたが「まだまだ元気でやっているので、時間があったらいつでも来てください。また会うのを楽しみにしています」と、笑顔で締めくくってくれました。
次は村の『農業研修館きらり』へ。今夜の宿となる『宿泊体験館きこり』に隣接し、7月にオープンしたばかりの施設です。食堂と厨房を兼ねた真新しく明るい集会室で、飯舘村役場農業委員会の草野さんが復興途上にある村の現状や、施設の概要について説明してくれました。「飯舘牛」ブランドの復活など課題を挙げた上で「『きらり』は長期の宿泊もできる施設。新規就農に関心のある方は是非、役場の産業振興課にお問い合わせください」とアピールしました。
『きこり』にチェックインを済ませたら、お待ちかねのディナーです。川俣町方面へ向かう県道12号線から見上げると、脇道を少し上ったところに壁がオレンジ色に塗られた印象的な建物が見えます。そこが古民家を改装した田舎レストラン『La Kasse(ラ・カッセ)』。フランス語風の店名ですが、実は地元の方言で「食ってかっせ」(食べていって)などという時の「かっせ」に由来しています。
オーナーシェフの佐藤雄紀さんはUターン組。10代で料理人になり、福島市や郡山市のフレンチやイタリアンの店で修業を積みました。2022年に村へ戻って開業したのは「自分の店を持ちたい」という夢を実現したかったのと、原発事故で傷ついたふるさとに、人の集まる場所、立ち寄る場所を作りたいとの思いからでした。
この日のメインディッシュはビーフシチュー。ブルゴーニュ産の赤ワインで煮詰め、隠し味にとなりの川俣町で採れたハチミツも使い、コクの深い味わいに仕上げました。
牛肉はもちろん飯舘産。和牛の繁殖、つまり子牛の出産から肉の小売までの一貫経営に取り組む山田豊さん(『株式会社ゆーとぴあ』代表)が生産者です。まだ正式なブランドとしては名乗れませんが、以前は全国的にも知られた「飯舘牛」の復活へ向けて、村内では多くの若手畜産農家が頑張っています。復興への思いが込められたその味わいと、さまざまな話題に大いに盛り上がりました。
[2日目]
『きこり』の前に広がる池『あいの沢』は早朝から霧に包まれ、幻想的な景色が広がっていました。本格的な紅葉には少し早かったものの木々の葉も色づき始め、遊歩道で散歩を楽しむには最高の朝でした。
朝食を用意してくれたのは、村内でミニトマトなどの栽培を営む『株式会社エムケーファーム』の代表、菊野里絵さんです。
メインは3種のおにぎりで、特に天つゆ、天かすなどを混ぜ込んだ「悪魔のおにぎり」は絶品でした。みそ汁の材料はすべて地元産。ミニトマトに卵焼き、ハヤトウリの漬物など見た目もカラフルで栄養満点のメニューに、皆さん満足げ。
菊野さんも実は東京出身の移住者。エムケーファームは農業復興の担い手として期待される存在で「企業雇用型」の地域おこし協力隊員として採用された村外出身の社員も活躍しています。
『きこり』を出発した一行がバスで向かった先は、村の文化・社会教育活動の拠点である『交流センターふれ愛館』。館内の和室で、”までいを知るワークショップ”と題して、はたき作りを行いました。使わなくなった衣類や手ぬぐいなどの布を適当な幅と長さに裂き、竹棒の先端に取り付けていく作業は、簡単なようで意外に難しく「不揃いになっちゃった」「短すぎた?」など、にぎやかに言葉を交わしながら真剣に取り組みました。
はたき作りの指南役は長正サツキさん。「私たちは、こういう古いもの(布)も”までい”の心で捨てられないの」と話します。”までい”は地元の言葉で「物を大事にする、丁寧に仕事をする」といった意味。飯舘村が長年、地域づくりの基本にしてきた精神でもあります。
昔話を集めて本にし、読み聞かせなどの活動もしている長正さん。「聞いてみたい」という要望に応え、短いお話を語ってくれました。こうした古い民話を語り継ぐのも、までいの精神の表れでしょうか。
館内ではちょうど村の「文化祭」が開催中で、村民が制作した絵画や工芸品などの作品が展示されていました。前日の農業体験で講師を務めてくれた赤石澤さんも、受賞者の一人として文化展、表彰式の壇上に。参加者は意外な再会に驚きながら、笑顔で声をかけていました。
次に訪れたのは、『いいたて移住サポートセンター3ど°』です。スタッフが、移住者を対象とした補助金などの支援策、村の生活や仕事などについて詳しく教えてくれました。
住まいに関しては、希望者に空き家を紹介する「空き家・空き地バンク」や、村民に委託して情報収集に協力してもらう「空き家・空き地バンクサポーター」などの取り組みを解説。
また、地域おこし協力隊として現在6人(フリーミッション型2人、企業雇用型4人)が村内で活動していることも説明し「興味のある方は是非ご相談ください」と呼びかけました。
実は今回説明してくれた須永さんと礒干さんも、移住を経験しています。須永さんは「古い家が好きで、購入した家を改修して住んでいます。農業もやりたくて、耕運機を買いました。東京ではひ弱だった夫が、今は日焼けしてすっかりたくましくなりました」と、都会の生活から一変した暮らしぶりを語ってくれました。
『いいたて村の道の駅までい館』での自由時間(買い物・見学タイム)を経て、バスは昼食会場の『氣まぐれ茶屋ちえこ』がある佐須地区へ。
お店を切り盛りする佐々木千榮子さんは「来年は4回目の成人式(80歳)なのよ」と笑いますが、ふるさとの味を伝え、評判のどぶろく作りにも精を出すパワフルな女性です。前日のお弁当に勝るとも劣らない、地元の食材をふんだんに使ったお膳で迎えてくれました。
60歳近くなってから「農家の嫁で終わりたくない。自分の時間を作ろう」と思い立って開店したこのお店は、20年を越えます。嬉しいこともあったけど、さまざまな苦難も乗り越えて、それでも「4回目の成人式を迎えるんだ」と笑う千榮子さん。「私にはブレーキもバックギアもない。前進あるのみだ」と自分に言い聞かせ仕事を続けているそうです。その決意の強さに、参加者も深い感銘を受けたようでした。
食事の後、参加者一人一人から2日間の感想を話してもらいました。
「山があって、家と家の間が遠い。富山県の散居村(家屋が1ヵ所に集まらず、点在する集落)にも似た美しい村の風景に魅せられた」
「原発事故で人が離れた地域という印象を持っていたが、意外とにぎやかだった。村を良くしていこうという思いが伝わり、私もパワーをもらった」
「自然に癒された。いろいろあっても今を楽しく生きようという(村民の)強い生き方にも励まされた」
「たった2日間なのにすごく温かい気持ちになった。人間らしくいられる場所だと感じた」
「どんな”素敵”を見つけられましたか?」という問いに、手でハートの形を作り「これです」と答えてくれた参加者もいました。
サン=テグジュペリの「ちいさな王子」に「大切なものは、目には見えないんだよ」という言葉が思い出されました。その大切なものを受け取ってもらえた、と確信できた瞬間でした。
参加者の皆さんそれぞれに、村で過ごした2日間の中で刺激を受けながら、村での生き方、あり方を自分に問いつつ、イメージを膨らませることができたようです。移住への第一歩は、村を訪れることから。飯舘村が気になった方は、ぜひ「いいたて移住サポートセンター3ど°」へお気軽にお問い合わせください。