2024.12.15
【僕らが飯舘に移り住んだ理由#3】清水直土さん
インタビュー企画「僕らが飯舘村に移り住んだ理由。」。#03は、彫刻家の清水直土さんです。
生まれ育った仙台市の大学で美術を学び、石彫作品を中心に、絵画や立体アートなど多彩な作品を制作・発表している清水さん。中でも石彫作品は、在学時から、数々の展覧会で受賞を重ねています。
彫刻家としての歩みを進めるために、飛び散る石片や工具の音を気にせず制作に打ち込める場所がほしいー。清水さんは、作業場の移転先を探していました。
その候補地の1つが飯舘村でした。役場の担当者に相談したり、移住検討者向けのイベントに参加したりするうちに、親身に耳を傾けてくれる人々の温かさに触れ、この村への移住を決意しました。
縁あって入居した一軒家は、築200年の古民家。リフォームされていて不自由はないものの、震災以降使われていなかったために、野生動物に荒らされた跡もありました。しかし、制作活動の拠点を手に入れた清水さんは、「慣れれば問題ない」と全てを前向きに受け止め、新生活の場を整えていきました。「もともと田舎暮らしに憧れがありましたから」。
「生活環境も全く不便に感じません」と快活に笑う清水さん。「自然豊かなこの環境に慣れてしまうと、都市部に買い物に行った時に、店も人間も多いなあと感じてしまいます。街場を客観的に見られるようになったんですね。仙台市にある実家は、徒歩圏内で何でもそろう環境ですが、むしろ、そんなにお金を使わなくても生活できる、ここでの暮らしの方に価値を感じます」。
だがしかし、作業場と自宅が一体となったことによる困りごとが、1つだけあるそう。「以前は家と作業場の間に距離があったのですが、今は作品が常に見える場所にある。見ているうちに、ここをもう少し直したいな…となり、その繰り返しで、なかなか終われません」。移動時間がなくなったにもかかわらず、制作期間が長くなりがちなのだそうです。
丸みを帯びたユニークなフォルムが、観る人をぐっと惹きつける清水さんの石彫作品。ユーモラスでファンキーな造形が、硬く無機質であるはずの石に、温かみや生命力を与えています。
清水さんは、大きな石を、大まかにグラインダーで削ってから、ノミとツチを使って、手彫りでこの美しい曲線を描いています。「僕の中に好きなラインやボリュームがあるんです」。新作は数か月をかけて制作中で、中央の作品展に出品する予定です。
屋外につながる開放的な作業場には、大小の作品が物言いたげに並んでいます。清水さんが制作中の作品にノミを当てツチをふるうと、カンと高く響いた音が、気持ちよく青空に吸い込まれていきました。
清水さんは、彫刻家として制作活動を行う傍ら、さまざまなアルバイトを経験してきましたが、移住に合わせて、飯舘村森林組合に就職しました。高校時代はボクシング部に所属し、なんと東北大会で優勝をしたこともあるスポーツマン。「もともと体を動かすことが好き」と森林組合の仕事にも前向きです。講習を受け、仕事に必要なさまざまな資格を取得しています。
「村の人は皆さん穏やかでやさしい。僕は彫刻家として、よりよく地域の皆さんと馴染んでいきたいです」。清水さんは、地区の草刈りや夏祭りにも参加していて、近所の人に隣町まで飲みに連れて行ってもらったこともあるそう。「ずっと先のことですが、村に個人美術館ができたらうれしいですね」と茶目っけたっぷりに笑いました。
彫刻家としての存在が知られるに従い、ワークショップの依頼なども増えてきました。「石彫りの体験をしていただいた時、皆さん恐る恐るかなと思ったら、ノミとツチでガンガン始められて、すごいなと。手を打たないよう声をかけたほどでした」。
ワークショップを通じて知り合った村内の石材店から御影石を譲り受け、飯舘産の石でも制作をしています。
移住をして1年が経ち、清水さんは結婚しました。妻の千恵さんは大学時代の同級生で、絵を描いています。令和6年夏には、千恵さんのふるさと石巻市で、グループ展を開催しました。「初めは、こんなに豊かな暮らしができるとは思っていませんでした」と清水さん。夫婦は、あえてテレビを置かず、2匹の黒猫と一緒に、古民家暮らしを楽しんでいます。